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「しぼりたてモンブラン」の始まりとは?

「しぼりたてモンブラン」の始まりとは?

ここ最近、注文を受けてから栗ペーストをしぼり、完成させるタイプのモンブランが大人気を博している。数年前まではモンブランと言えば、ショーケースに並べられたものを買うのが当たり前だったというのに、一体いつからモンブランはしぼりたてを食べるようになったのだろうか?そしてなぜこんなにブームが広がっているのか?そんなことを疑問に思った方はいないだろうか?

その名前も「生搾りモンブラン」であったり「しぼりたてモンブラン」であったり「錦糸モンブラン」であったり色々だ。

しぼりたてモンブランについて書かれたブログなどは数多い。私も色々と目を通したが、このブームの始まりについて網羅性のあるものは多くない印象だ。なので、今日はこのブームについて私なりの見解をまとめてみたい(もちろん私の持つ情報も限定的である可能性があるので、もし実はこのお店がもっと前に始めていたよ!という情報があればぜひ教えてください)。

まず呼称については便宜上「しぼりたてモンブラン」という言葉で統一して話を進めたい。

そして「しぼりたてモンブラン」の定義を「注文を受けてから栗ペーストをしぼり、完成させるモンブラン」とする。必ずしもお客様の目の前で完成させることは条件には入れないでおく。

一体誰がこのブームのきっかけを作ったのか。

しぼりたてモンブランを始めたのはおそらく谷中にある「和栗や」だと思われる。「和栗や」は2011年のオープン時から、店内でしか食べることのできないしぼりたてのモンブランを提供していた。色々調べても、このお店より前にしぼりたてモンブランを提供していたお店はなさそうなので、おそらく元祖として間違いないだろう。なんという先見の明だろうか。実はモンブラニストの間で有名な「Mont Blanc STYLE」はこちらの系列店である。

Mont Blanc STYLEのモンブラン

次にしぼりたてモンブランを提供したのは長野にある「小布施堂」ではないか。「小布施堂」で「モンブラン朱雀」の提供が始まったのは2014年の栗シーズンだ。彼らの特徴はその年の新栗で栗ペーストを作るという点にある。これが本当に風味豊かで美味しい。

小布施堂のモンブラン朱雀 2022年版

2014年に小布施堂でしぼりたてモンブランである「モンブラン朱雀」がリリースされてから2年後、2016年4月11日京都・北山にある「マールブランシュ」で、自分のテーブルの真横でモンブランを作り上げてくれるサービスがリリースされている。その名も「モンブラン・オートクチュール」。混ぜ合わせるラム酒も複数の選択肢から選べるという究極のカスタムレベル。私も随分前にいただいたことがあるが、本当に美味しい。

その後同じく京都の「KYOTO KEIZO」という洋菓子店で「10分モンブラン」という賞味期限が10分というモンブランが売り出された。なんとこのお店は「10分モンブラン」を商標登録している。これが2017年の話だ(商標登録のデータベースを確認すると、商標が登録されたのが2017年7月になっているが、申請者は「株式会社モンテボッカ」という別の会社になっている)。

そして2018年5月には代々木八幡で先述の「Mont Blanc STYLE」がオープンし、作りたてのモンブランを提供し始めた。現在は完全会員制になり新規会員募集も停止しているため、会員以外の方はもはや食べることができない。

そして2019年10月に京都の鴨川沿いに「紗織~さをり~」がオープン。絞り出す栗ペースト(彼らは錦糸と呼んでいる)の細さを1mmにしたことを売りにして、爆発的なヒットとなる。このお店はしぼりたてモンブランの元祖ではないものの、現在のしぼりたてモンブランのスタイルを作ったと思われる。

紗織~さをり~のモンブラン

その後「栗歩」「生搾りモンブラン専門店」など搾りたてモンブランの専門店が各地に増えて現在の状態になっていった。

もちろんアシェットデセールとしてのモンブランはホテルのレストランなどで提供されていた可能性もあるが、しぼりたてモンブランを愛する僕らとしては、「和栗や」の創業者でありオーナーである竿代信也さんの発想力と情熱に心からの感謝の気持ちを送りたい。

一方で、そういったしぼりたてモンブランを作り、受け入れる素地が元来日本にはあった可能性もある。それは和菓子としての栗の歴史である。

例えば「小布施堂」が「モンブラン朱雀」を発売したのは2014年であるが、実は新栗を蕎麦のように裏漉しして盛り付けた栗菓子「朱雀」はそのずっと前から提供されていた。「小布施堂」に電話で確認したところ、1990年には「朱雀」を正式なメニューとして提供し始めたとのことだった(実は裏メニューとしては、1987年に本店ができた頃から存在していたとのことだ)。なんと30年以上前からフレッシュな「しぼりたて(正確には「漉したて」というべきだが)」栗メニューが存在していたのだ。そう考えると、表現形式が時代の要請でモンブランという形に変わっただけで、その素地は実はずっと前から日本には存在していたということになる。これは興味深い発見だ。

もしかしたら「小布施堂」以外にも、栗の産地である中津川などでも栗ペーストを錦糸状にしたものが提供されていた可能性もあるので、今後栗産地に出向いての追加調査は必要だ。「小布施堂」の「朱雀」が30年以上前に誕生していたことを踏まえると、おそらく伝統のある和栗菓子を作る歴史の中で、栗をフレッシュに味わうノウハウや技術が蓄積され、またフレッシュな栗菓子を愛でる文化が育ち、それが竿代さんのインスピレーションによってモンブランとして具現化されていったのだろう。形はモンブランであれ、和栗菓子であれ、僕たちはずっと昔からフレッシュな「しぼりたて」の栗を味わい続けてきたのだ。