国際的に見たモンブランの種類とその起源について、もう誰もが知ってる某有名ワイドショーから日本モンブラン協会宛に問い合わせがありました。当協会もその存在をとうとう知られてしまいました。。。笑
その時に調べた内容がとても興味深かったのでここにシェアしておきますね。モンブラン検定が出来上がったら、確実に出題されるような重要な内容です。知る限り、日本語ではこの情報はどこにも上がっていません。
問い合わせの内容は、ずばり「アンジェリーナのモンブランは元祖フランス式モンブランと言えるのか?」というものでした。確かにアンジェリーナは1903年に開業しており、モンブランの歴史において非常に重要な存在ではあります。ではアンジェリーナがフランス式モンブランの元祖かというと、はっきりとそうだとは言えないモンブラン誕生の歴史があるのです。
そもそも、モンブランをモンブランたらしめているものはなんでしょうか?モンブランの始まりを考えるにあたり、この点は非常に重要です。なぜならモンブランの重要な素材である栗は、何千年も前から人類が食べ嗜んできた食物であり、日本でも9000年前の石器時代の遺跡から炭化した栗が発掘されているくらいなのです。まさか石器時代からモンブランが存在していた、なんてことはない訳ですが、はっきりとそういうためにも、何がモンブランをモンブランたらしめているのかを考える必要があります。
モンブランの国際的な定義は3つあります。まず何より甘い必要があります。そして栗のクリームでできていること。そしてホイップクリームが使われていること。この3つを備えていて初めてモンブランと言える訳です。日本ではモンブランは独自の発展を遂げていて、栗ではなく芋が使われていたり、抹茶が混ぜ込まれていたりして、それでもモンブランと呼称されていますし、それもモンブランの一種と呼んで差し支えないと思いますが、スタンダードなモンブランの定義としては上記の3つの要素を含んでいることに異論はないでしょう。
モンブランの起源であるヨーロッパでも、栗は愛され、紀元前2000年前から栗を食べていた記録が残っています。ここからいよいよモンブランの起源に近づいていきます。1844年にはスイスやドイツに、栗をクリームとバターで調理し、シナモンで味付けしたというレシピが残っていますが、まだ「甘い」訳ではありませんでした。
フランスでも、1842年には幾つもの料理本に、線状にこした栗のペーストを盛り付けした「甘い」デザートのレシピが載り始めます。が、まだホイップクリームは添えられていませんでした。しかしかなり近づいてきましたね!
そして1847年、entremets du Mont-Blanc、もしくはシンプルにmontblancという名前で栗のペーストと生クリームを合わせた甘いデザートが世に出ました。これはDessatペイストリーショップが発明したと言われています。ただはっきりとしたレシピが残っている訳ではありません。
栗のペーストとホイップクリームを合わせたモンブランとして文字として残っている最初のものは、1885年に発行された新聞「フィガロ」に掲載されたもののようです。ここでは”torche aux marrons”という名前のアルザス地方の一品として紹介されています。”torche”とはフランス語で「松明」のこと。「栗の松明」ってもうなんだかモンブランの形が見えてきますよね。それにしても、こんな昔の新聞が記録として残っていて、誰でも見れるなんてすごいですよね!

このレシピには栗のペーストを線状に絞ったとは書かれていないのですが、1892年に出たLa Femmeという女性向け雑誌の記事ではこの”torche aux marrons”というアルザスの一品は南フランスで言うところのモンブランであるとはっきり述べられています。そして同じ一品を”marrons chantilly”と別の料理本でも紹介されています。マロンシャンテリー!東京會舘のモンブランですね。
そして1903年にEscoffierというシェフによって出版された“Guide Culinaire”ではモンブランの作り方が明確に説明されています。そこでは「甘いバニラミルクで調理した栗をふるいにかけ、線状に落ちた栗のペーストが型を満たすようにします(中略)荒々しい山を模倣して不規則にクリームを盛り付けます」(私訳)というアドバイスまで書かれています。今僕らが知るモンブランよりちょっとワイルドな感じがしますが、確実にモンブランではありますね。
実はこの1903年というのはパリにあのアンジェリーナが誕生した年でもあるのです。ここまでのモンブラン誕生の歴史を振り返ってみると、19世紀中盤から50年以上にわたってゆっくりと進化して今の形に近づいていったと思われ、決して誰かが発明したというものではないようです。しかしながら、確かにモンブランを商業的に確立したのはアンジェリーナであると言ってもいいのかもしれません。
それが迫田千万億さんによって日本にもたらされ、発展し、今では搾りたてモンブランが日本で大ブームになっている − アンジェリーナの創業者も当時そんなことになるだなんて思っても見なかったことでしょう。
今度モンブランを食べるときには、ぜひモンブランのこんな長い歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。よりモンブランが味わい深く感じるかもしれません。